働き盛りの50代は、同時に老後を意識し始める時期でもあります。定年後はどこでどのように暮らすのかを考え、今の家から終の棲家へ住み替えたいと思う方は多いでしょう。
終の棲家は戸建てとマンションのどちらがよいか、購入資金をどう調達すればよいかなど、具体的に考えるほどに住み替えには悩みが尽きません。
50代で住み替える理由と、マンション・戸建てのどちらがよいか、また50代の住み替えで注意すべきポイントについて解説します。
目次
なぜ50代での住み替えは多いのか
統計から50代で住み替えをする方が多いことがわかっています。はじめに、50代で住み替えをする理由とメリット・デメリットについて解説します。
50代で住み替える理由
50代で今の家から住み替えを考える方が増えています。
国土交通省「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」の住宅取得者動向によると、初めて住宅を購入する一次取得者の平均年齢が30代後半から40代前半であるのに対し、二次取得者(2回目以上の取得)の平均年齢は以下の結果でした。
・注文住宅:59.9歳
・分譲戸建住宅:48.3歳
・分譲集合住宅:58.1歳
・既存(中古)戸建住宅:52.5歳
・既存(中古)集合住宅:53.6歳
統計では分譲戸建住宅以外の項目で50代・60代の割合が6〜7割を占め、リタイア前の50代から住み替えをする方が多いことがわかります。
50代で住み替えを考えるきっかけは、それぞれの事情にもよりますが、一般的に次の理由が多いといわれます。
・子どもの独立で空き部屋ができた
・家屋が老朽化した
・賃貸のため今後も住み続けられるか不安
・通勤電車がつらくなった
・親の土地を相続した
・親や子ども世帯と同居、もしくは近くに住む
・バリアフリーを意識し始めた
子育てが一段落すると同時に、親の老後も見ていることから、自分の老後をイメージしやすくなるのが50代の特徴です。家族構成やライフサイクルの変化、老後の備えへの強い意識が、50代の住み替え動機につながっています。
50代で住み替えるメリット
50代で住み替えるメリットを紹介します。
一般に、50代になるとライフサイクルが確定し、将来のリスクを見通すことが可能です。30代・40代では結婚や子どもの誕生、転職や転勤などにより生活が変わり、転居の可能性がありますが、50代になるとこうした変化は少なくなります。そのため、50代は住宅購入のシミュレーションがもっともしやすい時期といえます。
また、子どもが独立すれば、自分にとっての利便性を重視して住まいを選ぶことも可能です。部屋数が不要な分、たとえば都心のコンパクトなマンションなども選択肢に入れられます。現在の家を売却すれば、通勤に便利で生活の便のよいエリアに、マンションを購入することも可能です。
さらに50代は収入のピークにあたるため、リタイア世代の60代と比べると住宅ローンが通りやすい点も、50代で住み替えをするメリットです。
そのほか、一般に50代は60代よりも健康状態が良好なため、ハードな引っ越しにも耐えられます。来るべき老後に備えて、体力と資金力のあるうちに住み替えができることも、50代のアドバンテージといえるでしょう。
50代で住み替えるデメリット
50代で住み替えをするデメリットを見てみましょう。
50代は収入が多いと同時に、支出が多い年代でもあります。子どもの学費負担が重く貯蓄が少ないケースなどもあり、住み替え資金が不足することがデメリットといえそうです。
また、50代はまだ家のローン返済が残っているケースも多く、その場合は住み替えによる二重ローンで、返済負担が重くなりすぎる可能性があります。さらに、住宅ローンの完済時年齢の上限は通常80歳未満とされているため、30代や40代と比べると、長期ローンを組みにくくなります。
そのほか、50代は現役世代のため、リタイア世代と比べると引っ越し時の時間のやり繰りに苦労するでしょう。仕事で多忙なため、各種手続きや内覧の日程調整などが、リタイア世代よりも難しいといえます。
しかしこうしたデメリットは、適切な収支計画や物件選び、綿密なスケジュール調整により克服でき、メリットを活かした住み替えをすることが可能です。
50代の住み替え先はマンションにすべき?
「50代の住み替え先はマンションがいい」と耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
ここでマンションを購入した場合と、賃貸マンションに住み替えた場合、戸建てを購入した場合の3つに分けて、メリット・デメリットをまとめました。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
マンション購入 | ・資産になり費用対効果が高い ・売却がしやすい ・メンテナンスが不要 ・セキュリティ面で安心 ・バリアフリー設計が多い | ・管理費・修繕積立金の支払いがある ・外出が億劫になることも |
賃貸マンション | ・ランニングコストが不要 ・メンテナンスが不要 ・セキュリティ面で安心 ・バリアフリー設計が多い ・気軽に住み替えできる | ・家賃の支払いが生涯続く ・高齢になると審査が通りにくい場合がある ・リフォームできない |
戸建て購入 | ・生涯住まいの心配が要らない ・土地が資産になる ・使途やリフォームが自由 | ・防犯負担が大きい ・階段の上り下りが困難になる(2階建ての場合) ・気軽に引っ越しできない ・修繕資金の準備が必要 |
持ち家の購入と賃貸でどちらが有利かは、設定条件により異なります。自身の事情や人生設計に合わせてシミュレーションをすることが大切です。
マンション購入
老後の住まいにマンションを選ぶ方が増えています。夫婦二人や単身にちょうどよい広さや間取りを選択できることが、マンションを選択する主な理由です。
また、マンションは資産となります。賃貸で払い続ける家賃と同額をローンの支払いに充てれば、完済後に物件を活用することも可能です。また、将来介護施設などに入居した場合でも、利便性の高いマンションであれば比較的容易に売却が可能です。
さらにマンションは共用部分や施設が管理組合によって維持管理されているため、戸建てのような面倒なメンテナンスが不要です。24時間365日ゴミ出しができるなど、共用設備の便利さや、セキュリティが優れていることなども、老後にマンションに住む魅力です。
ほかにも、マンションは一般に戸建てと比べ、駅から近く、スーパーや病院が近いといった利便性の高い物件が多いため、老後快適に暮らせる条件がそろいやすいといえます。
一方で、マンション購入にはデメリットもあります。まずは、ローン以外に管理費、修繕積立金の支払いが必要なことです。修繕積立金は築年数が進むと値上げされることもあるため、余裕をもって見積もっておくことをおすすめします。
また、年を取るとエレベーターや階段、エントランスまでが遠く感じ、老後に外出が億劫になる方もいる点がデメリットといえるかもしれません。
マンション購入は、世帯人数やライフスタイルに合わせた住宅を購入したい場合に向いています。
賃貸マンション
賃貸マンションのメリットは、初期費用がほとんどかからないことです。持ち家の初期費用は数百万円単位で必要ですが、賃貸であれば、敷金・礼金、火災保険料、仲介手数料など、数十万円で済みます。維持費に関しても、2年ごとの更新料(一般に家賃の1カ月分)と火災保険料のみです。
また、エリア選択と住み替えの自由度が高いことも、賃貸のメリットです。物件購入に比べ、家計やライフスタイルに合わせて自由に住み替えができるため、少ないストレスで生活できるといえます。住みたいエリアを選べることも、賃貸住まいのメリットです。
一方、賃貸のデメリットは、高齢になると借りにくくなるリスクがあることです。借りにくくなる理由は、収入低下による家賃未払いや、健康状態や突然死などに対する不安から、貸主が敬遠するケースが多いことによります。
賃貸マンションへの住み替えは、初期費用の準備が困難な場合や、高額・長期のローン支払いが難しい場合、ライフスタイルにあわせて住み替えたい場合に向いています。
戸建て購入
戸建てを購入するメリットは、住まいを生涯にわたり確保できることです。ローン返済が終われば資産になるため、活用したり子どもに相続させたりすることも可能です。
いざというときに「リースバック」や「リバースモーゲージ」を利用して、住みながら資金を調達できる可能性もあります。
戸建てを購入するデメリットは、初期費用や住宅ローン支払いが高額になるほか、固定資産税が毎年かかることです。将来的にはリフォーム資金も必要となり、維持管理がすべて自己負担になります。戸建てを購入する場合は、ランニングコストを賄えるよう、計画的な積み立てを行うことが必要です。
また、2階建ての場合に階段の上り下りが困難になることも、老後にデメリットとなるでしょう。もし老後を見越して戸建てを建てるのであれば、生活導線を重視した平屋にすることをおすすめします。
戸建てへの住み替えは、生涯にわたり住まいの心配をしたくない場合や、自宅を資産として残したい場合、家屋や敷地を自由に使いたい場合に向いています。
50代の住み替えにはどのような注意が必要?
50代で住み替えをする理由や、物件タイプごとに住み替えのメリット・デメリットを把握したら、老後の住まいをだいぶイメージできたのではないでしょうか。
最後に、住み替えをもっと具体的にイメージできるよう、50代の住み替えにおける注意点を以下のポイントで解説します。
・住み替えの目的を明確にする
・今の家を売って手元に残る金額で判断する
・定年後のローン返済計画を考慮する
・間取りは生活導線を考慮する
・生活の便のよい立地を選ぶ
住み替えの目的を明確にする
最初に住み替えの大まかな目的を考えます。
たとえば、「生活を快適にしたい」「第二の人生設計に必要な住環境を整えたい」「住まいにかかる費用や時間・手間を減らしたい」「相続人がいないため生前に財産の処理をしたい」などです。住み替えで何を叶えたいかを、1番目に考えましょう。
さらに「どこに・誰と住みたいか」「都心なのか郊外なのか」「子どもの近くがよいか」など、より具体的な条件を絞っていきます。重視したい条件が複数ある場合は、優先順位を立てることが必要です。
住み替えの目的を明確にすると、新しい住まいの条件が見えてきます。「持ち家なのか賃貸なのか」「戸建てなのかマンションなのか」「居住エリア」「住宅ローン借入額」「間取りや環境」といった物件の詳細について、選択肢が絞られ判断しやすくなります。
今の家を売って手元に残る金額で判断する
今の家を売った売却価格ではなく、手元に残る金額で判断しましょう。
住み替えは一般的に、現在の家の売却代金から住宅ローンの残債を返済し、残った資金を新しい住まいの取得資金に充当する「売り先行」が理想です。その際に、「いくらで売れるのか」「ローンの一括返済後にいくら残るのか」を確認したうえで、住み替え物件の条件を決める必要があります。
住み替え予算は、家を手放して手元に残る金額、無理なく拠出できる自己資金、余裕をもって返済できる住宅ローン借入金額から算出します。
まずは今の家がいくらで売れるか査定を受け、ローン残債などを加味して、手元に残る金額を把握することから始めましょう。
定年後のローン返済計画を考慮する
多くのローンで完済時の年齢上限を75〜80歳以下としていますが、在職時の収入を基準にローンを組むと、退職後の返済負担が大きすぎる場合があります。そのため、なるべく定年までに完済できる計画を立てることをおすすめします。
一般に50代からの住宅ローンは返済期間が短く、毎月の返済額が多額になったり、十分な融資を受けられなかったりする可能性もあります。なるべく自己資金で頭金を多く入れ、借入金を少なくするなどの工夫も必要です。
なお、退職金でローンの一括返済を考える方も多いですが、退職金はローンの返済よりも老後の生活資金としてプールするほうが安心です。年齢を重ねるほど病気や介護の出費が増え、年金だけでは突発的な出費に対応できなくなる可能性が高いためです。
住宅ローンの返済には、退職金をあてにし過ぎず、無理なく返済できる計画を考えましょう。
間取りは生活導線を考慮する
一般に、老後に必要な間取りは夫婦2人なら2LDK、一人暮らしなら1LDKが、広すぎず狭すぎない適切な広さだといわれます。
老後の住まいとしては、ほかにも間取りや設計上で留意したいポイントがあります。
・段差の少ない構造にする
・家事導線を短くし生活導線をまっすぐにする
・トイレや浴室に手すりを設置する
・可能であれば車椅子の通れる廊下の幅を確保する
・扉を引き戸にする
年を取ると足腰が弱り転倒しやすくなるため、段差が少ない構造にし、将来必要となる手すりも今のうちから設置しておきましょう。
また、生活導線を直線的にし、扉を引き戸にすれば、足腰が弱っても行動しやすくなります。引き戸は、普段は開けておけば開放感ある空間を演出できますし、リビングから浴室が近ければ、家族が浴室での異変に気づきやすくなります。
また、可能であれば、廊下を車椅子の通れる幅にしておくとより安心です。JIS規格による車椅子の幅や操作に必要な広さから逆算すると、廊下の内法は800mm〜900mmほど必要です。
高齢での転倒・骨折は一気に寝たきりへ進行しやすいため、住み替え時から将来のリスクを予測し、できる整備をしておきましょう。
生活の便のよい立地を選ぶ
年を取ればいずれは車を使えなくなるため、車がなくても買い物や病院など、日々の生活に困らない立地を選ぶほうが無難です。
役所などの公共施設が近いことも、老後の生活には重要なポイントです。高齢者福祉の充実した自治体を選ぶとより安心できます。
徒歩圏内に買い物先や病院があるか、電車やバスの本数が多い都市部を選ぶとよいでしょう。一般に都市部ほど歩道が整備されているため、年を取って外出しやすいといわれます。
また、立地のよい物件は、将来売却や賃貸運用をする際にも有利です。立地条件は将来的に変動することもあるため、都市開発計画などもチェックし、将来にわたって暮らしやすい物件を選びましょう。
もし老後に住みやすい立地条件や間取り、適切な設備などに迷う場合は、シニア向け物件の取り扱い実績が豊富な不動産会社に相談するのがおすすめです。ライフスタイルに合わせて物件を選ぶヒントを教えてくれます。
住み替えに関する流れや費用、タイミングなどに関してはこちらでも詳しく紹介しています。
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