住まいの住み替えで、思わぬ出費や売却価格の想定ミスによって赤字になってしまうケースは、決して珍しくありません。
では、赤字になってしまう根本的な原因とは何でしょうか。また、 どうすれば失敗を防げるのでしょうか。住み替えで赤字が出る主な原因と、そうならないための具体的な対処法などをわかりやすく解説します。
目次
住み替えで赤字が出てしまう原因とは?
住み替え時に自宅を売却して得られる金額が、住宅ローンの残債と新居購入費用などの合計を下回ってしまうと、思いがけず大きな赤字になってしまうケースがあります。
住み替えは人生の転機である一方、計画を誤ると経済的に大きな損失となり、その後の生活スタイルも大きく変えざるを得なくなってしまうでしょう。赤字リスクを回避するため、どのような要因で住み替え時に赤字となってしまうのか解説します。
購入価格が売却価格を上回った
新築時・購入時の取得価格よりも、売却時の価格が低下してしまうと、その差額が赤字となります。ただし、一般的に建物の価値は経年とともに低下するのが通例です。
築10年以上経過した住宅は、建物の価値が急激に減少しやすく、立地や設備の条件によっては想像以上に低価格に感じられる査定額が提示されるケースもあるでしょう。
あわせて以下のような環境の変化も、赤字につながりやすくなります。
- ・近隣店舗の閉店で利便性が大きく損なわれた
- ・近隣に新興住宅地が増え、自宅周辺エリアの人気が低迷している
不動産市場の動向やエリアの需給バランスも価格に影響を与えるため、購入当時と比べて価格が下落している場合は注意が必要です。
売却する物件の築年数が古い・大規模な修繕が必要
築年数が古い物件は建物自体の価値が大きく下がるため、売却価格が安くなりやすい傾向があります。また、大規模な修繕が必要な物件は、買主側が修繕費用を考慮して価格交渉を行うため、売却価格がさらに下がる要因となります。
特に屋根や外壁、防水工事といった部分のメンテナンスが不十分な場合は、買い手の印象も損ないやすく、早期売却や高値売却が難しくなります。
不動産会社による買取の場合も同様で、買取価格が低くなりがちです。メンテナンスが必須であり、すぐに売れるかわからないためです。売れるまでの管理費用コストも含めて、買取価格が提示されます。
住み替えローンが利用できなかった
住み替えローンとは、今住んでいる家のローンが完済できていない状態でも、新たな住居の購入資金を借りられる住宅ローンの一種です。通常は売却益でローンを完済しないと新たなローンを組みにくいですが、住み替えローンを使えば並行して購入・売却が可能になります。
しかし、住み替えローンは誰でも利用できるわけではありません。審査が通常の住宅ローンよりも厳しく、年収・勤務先・信用情報などが厳格にチェックされるため、希望しても利用できないケースがあります。この場合、新居購入に必要な資金が不足し、自己資金での補填が難しければ赤字リスクが高まります。
あわせて住み替えローンは、一般的な住宅ローン金利が0.5~2%とされる中、平均的な金利が2~4%に設定されるものが多いため、金銭的負担面から利用を断念せざるを得ないケースもあるでしょう。
住み替えで赤字にならないための対処法

住み替えで赤字になるのを防ぐには、売却価格の見極めと購入計画、そして資金計画を総合的に検討することが重要です。以下の対処法を参考に、計画的な住み替えを目指しましょう。
売却相場を確認して価格を設定する
第一に、住み替えでの赤字を防ぐには、現実的な売却価格を正しく把握することが欠かせません。
自己判断で高く見積もり買換えを急いでしまうと、想定以上に売却価格が安く、大きな赤字につながってしまいます。
また、相場より高く設定しすぎると売れ残り、時間や資金繰りの面で赤字に陥る可能性があります。不動産ポータルサイトや周辺物件の成約事例を確認し、複数の不動産会社に査定を依頼して相場観を養いましょう。
二重ローンにならないようにする
二重ローンとは、旧居のローンが残っている状態で新居のローンも支払う必要がある状況を指します。二重ローン状態下では月々の返済額が大きくなり、生活費に圧迫を与えるため、赤字のリスクが高まります。
これを防ぐためには、売却と購入のタイミングを調整することが第一ですが、住み替えローンを検討するなどが有効策です。コストがかかるので得策とまではいかないものの、必要に応じて仮住まいの検討も含め、無理のない返済スケジュールを立てることが重要です。
二重ローンが最適解となる場合には、できるだけ金利の低いローンを選ぶことも返済額軽減のポイントですから、金融機関の住宅ローン比較サイトなどを活用しましょう。
住み替えの実績が多い不動産会社を選ぶ
住み替えは通常の売却よりも手続きが複雑になるため、実績のある不動産会社を選ぶことが重要です。実績が豊富な不動産会社にすれば、スケジュール調整・価格設定などのアドバイスも受けられ、赤字リスクを未然に防ぐ提案をしてくれる可能性が高まります。
大きな決断となるシーンですから、口コミや評判だけでなく、実際に複数の不動産会社と面談して、担当者の知識・対応力も確認するようにしていただくと、後悔のない住み替えが実現できるはずです。
売却期間は余裕を持って設定する
住み替えでは、売却にかかる期間を見誤ると、予定していたスケジュールに遅れが生じ、結果的に赤字の原因となります。地域や物件の条件によって売却にかかる平均期間は異なりますが、目安としては3〜6カ月の余裕を持つことが望ましいとされています。
短期間で売却を目指すために価格を下げすぎると、赤字の直接原因にもなるため、スケジュールにはあらかじめ余裕を持たせるよう心がけましょう。
どうしても急ぎ現住居を売却しなければならない場合は、仲介でなく不動産業者の買取を検討し、新居が見つかるまで仮住まいをする心づもりで進めるのも一手です。
住み替えで赤字になったときの節税対策
万が一住み替えで赤字が発生してしまった場合でも、税制上の特例を活用することで、課税所得を圧縮し、実質的な負担を軽減できる場合があります。以下に代表的な3つの制度を紹介します。
ほかの所得と赤字を損益通算する
損益通算とは、ある所得で出た損失を、ほかの所得と合算して相殺できる制度です。たとえば不動産の譲渡で赤字が出た場合に、給与所得や事業所得と損益通算できれば、課税される所得が減り、所得税・住民税の軽減につながります。
ただし、マイホームの売却損について損益通算が認められるのは一定の条件を満たす場合のみで、主に「特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が該当します。
買換えの場合の該当条件は以下です。
- ・譲渡の前年中に日本にある建築済みで床面積50㎡以上のものを新規に取得する
- ・新居取得の翌年12月31日までに居住する(見込み可)
- ・新居取得年の12月31日まで償却期間10年以上の住宅ローンであること
参考:国税庁「No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
ただしこの特例は、「親の所有した物件に住み替える」「ほかの特例を含め2年以内に利用したことがある」場合などでは、適用されず損益通算できません。
マイホーム買換えの特例を利用する
一定の要件を満たす場合には、「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」を利用できます。この特例を利用することで、実質的な税負担が軽減され、住み替えによる赤字の影響を和らげられます。
一定の条件とは、「売却価格<買換え金額(必要経費を含む:(売ったマイホームの取得費+譲渡費用)×(収入金額÷売った金額)」の場合です。該当すれば買換えた年は譲渡所得がなかったものとして、課税が将来に繰り延べとなるというものです。
参考:国税庁「No.3358 売った金額より少ない金額でマイホームを買い換えたとき」
また、この特例に該当するには以下の条件に該当することも求められます。
- ・(現在は)令和7年中にマイホームの売却をすること
- ・新居・現住居ともに日本国内であること
- ・居住期間・所有期間がともに10年を超える、自分の住居もしくは3年以内に居住していた家屋である
- ・親や配偶者など特別の関係にある人との売買でないこと
- ・売却価格が1億円以下である
取り壊し済みの土地や借地権の場合や、火災などの災害で損傷した物件の売却はさらに詳細な条件があるため、以下で確認しましょう。
参考:国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」
マイホーム売却時の3,000万円特別控除を利用する
マイホームの売却時には、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」が利用できる可能性があります。これは、自宅の売却で得た譲渡益から最大3,000万円までを控除できる制度です。
譲渡損失が出た場合でも、将来的にほかの資産売却時に利益が出ることが想定されるなら、この特例とあわせて申告を検討すると良いでしょう。
熊本県の国税庁が発行しているパンフレットに、該当条件などがチャート式でわかりやすく記載されていますので、参照してください。
参考:熊本国税局「譲渡所得・贈与税パンフレット(令和5年版)」