2021年は、地震と津波で未曽有の被害を出した東日本大震災からちょうど10年を迎えます。
あの大災害のあと、さまざまな物事で地震対策が叫ばれ、それは建築・不動産業界にも大きな影響を及ぼしました。
その中のひとつに耐震基準という言葉がありますが、実は何度も改正されて非常に複雑に思われるものになってしまいました。
東日本大震災から10年、南海トラフ巨大地震も懸念される今だからこそ、耐震基準についてきちんと知識を整理しておきましょう。
【そもそも耐震基準とはなんだろう?耐震等級との違いとは?】
耐震基準とは建築基準法で定められている建物の強度のことで、木造、鉄骨造、コンクリート造など構造に関係がなく、規定の強度以上で建物を建ててくださいね、という制限です。
地震が多い日本なので、命を守る建物が大きな地震に耐えられるように作られることが義務付けられているのですね。
それをどうやって判断しているかというと、建物を建てるときには建てて良いかお伺いを立てて申請する建築確認申請があり、そこで判断しています。
これから建築する建物の設計図面や、構造によっては構造計算書を確認検査機関や行政が確認し、きちんと耐震基準を満たした建物ならば建築していい、というお許しがでて工事が進みます。
もちろん、その後の検査も義務付けられていて、見落としや間違い・手抜きなどなく建築されているか、専門家による検査があるので安心ですね。
ちなみに現在の耐震基準を簡単に説明すると、震度6強から7の大規模な地震に対し建物が倒壊しないことが前提で建てられています。
その上で、2000年(平成12年)にはさらに厳格化され、地盤の検討や金具の頑強化や構造上建物を支える壁の適切な配置などが義務付けられるようになりました。
ですからこれから建てられる建物や2000年以降に建築された建物は、大きな地震に対しても命の安全を守れるように作られているのですね。
耐震基準については分かっていただけたと思いますが、耐震等級とはどう違うのでしょうか。
耐震等級もまた、建物の耐震について調べていると目にする用語だと思います。
これは2000年に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律によって定められたもので、簡単に言うと住宅の性能をランク付けしようとする試みを法律化したものです。
全部で10個の分類からなっていて、耐震等級もそのうちのひとつとなるのです。
耐震等級は1から3の3段階で、耐震等級1は現在の耐震基準を満たしている建物なので、2000年以降で建築されたものは全て耐震等級1と言えます。
そして2は耐震等級1の1.25倍の強さ、3は耐震等級1の1.5倍の強さと考えると良いでしょう。
ただ、これらの耐震等級は明示を義務付けられているものではなく、住宅性能表示制度を活用して初めて明示できます。
具体的には耐震等級2や3に適合していることを証明する、適合証明書が耐震等級の証拠になるのですね。
とは言え、耐震等級がないからと言って耐震性が弱い建物ということもありませんよ。
【昔の建物の耐震基準は?その変遷史】
今の耐震基準が2000年以降に定められたものならば、それ以前はどんな基準がなかったのでしょうか?
もし中古住宅を検討しているのならば気になってしまいますよね。
ここでは耐震基準の変遷について解説してゆきます。
そもそも日本で耐震基準が設けられたのは1950年、今から70年前のお話です。
戦後間もない時期に乱立した無計画な建築に対し歯止めをかけて、法律にのっとって人命や財産を守る目的で成立しました。
その直前の1948年には福井地震が発生し、それを受けて定められたのですね。
そのときの基準ではある程度の強度で建物が倒壊しないことが求められました。
その強度とは現在で言うところの震度5強の地震で倒壊しない程度であり、建物が少し壊れるなどは許容されてきました。
近年では震度5程度の地震は結構あるのでは?と思ってしまいますよね。
実際、1978年に発生した宮城県沖地震によって多くの建物が倒壊し、甚大な被害をもたらしたことによって耐震基準が見直されます。
それにより1981年(昭和56年)に建築基準法が改正されて新耐震基準が定められました。
どう変わったかというと、まれに発生する震度6から7の地震に対し、建物が倒壊しないように建築・設計することが求められ、それが一番大きな旧耐震構造との違いですね。
たびたび発生する震度5程度の地震に対しては小さなひび割れや微細な欠損が発生するくらいになります。
これがよく言う「旧耐震」と「新耐震」という線引きになり、不動産を購入するときにはひとつの基準になるのです。
そして新耐震の建物は1995年の阪神淡路大震災でも倒壊した記録はなく、その安全性が証明された形です。
倒壊しないと入っても建物が完全に無事だったのではなく、壁のひび割れや給排水ガス配管の破損、火災による消失などは発生したそうです。
新耐震の建物は建物が崩壊して人を押しつぶすことがなかったということですね。
その後は2000年に阪神淡路大震災を受けて建築基準法が改正され、現在の基準に近くなります。
この改正では建物の強度もさることながら、建物が建つ地面の強さ、地盤調査について盛り込まれ、地盤がどれくらいの重さまで耐えられるか調査をし、それに対応した基礎構造で建築するように事実上義務化されました。
その後は世間を賑わせた耐震偽装事件がきっかけで、2007年に建築確認申請の許認可や、建物が竣工した後に行う完了検査の基準が厳しくなりました。
こうしてみてみると建築基準法や耐震基準は大地震が発生したり、事件が起きることがターニングポイントになり、より強固に建築することが求められ、法律が厳格になってゆくのが分かります。
地震により大きな犠牲もありましたが、それが木造住宅の基準変遷やコンクリートなどの建物の基準変遷に繋がり、現在の建築基準の安全に繋がっているのです。
【旧耐震の物件って安全なの?】
耐震基準について、その変遷史を確認すると、ここでひとつ疑問にぶつかります。
旧耐震の建物は1981年以前に建てられたということは築40年以上で、そんな建物はあるのでしょうか?街中にあふれているのでしょうか?ということですね。
続いてその建物は安全なのでしょうか?と思い浮かべる方も多いでしょう。
実は旧耐震の建築物は少なくなくありません。
コンクリートの住宅は財務省が定めた法定耐用年数でも47年、事務所用ならば50年間認められていて、現役で使用されているものも多いのです。
建物の実際の寿命はそれ以上に長いので、マメなメンテナンスやリノベーションされていれば一見して分からないこともあるでしょう。
ですから賃貸マンションやオフィスビルに年季が入った建物もそれなりに存在し、住戸ならば中古マンションや賃貸マンション、投資用物件ならばマンションやオフィスビルを検討していると目にすることがあるのですね。
もちろん木造住宅でも築年数が40年以上の物件も取引されています。
もし、そうした旧耐震の物件に住んでいる、または利用していることを不安に思えるかもしれません。
実際は旧耐震だからと言って現在の耐震基準に全く適合していないということはなく、当時の建物としてはとても強い構造の建物があるのも事実です。
また、旧耐震だからこそ耐震診断や耐震補強工事を施すことで、強度を確保する方法もあります。
木造住宅ならば木造住宅無料耐震診断を名古屋市が無料でやってくれるので、それを利用するのもいいでしょう。
耐震診断により補強工事が必要ならば木造住宅耐震改修助成制度を利用することも可能です。
その他にも耐震改修による特別控除などもあるので、必ずしも旧耐震だからダメということは覚えておきたいですね。
中古物件の不動産を購入するときには、この建物がどの耐震基準に該当するのか、よく確かめておくことでいざというときの安心に繋がります。
もし、よく分からない場合は専門家に相談するといいでしょう。
弊社、ファミリアホームサービスでもお客様から、旧耐震のこの物件は大丈夫かどうか、今の住まいは新耐震だけれども安心して良いのか、耐震補強工事についてなど、普段からいろいろな相談をいただきます。
お買い得な旧耐震の物件情報などもございますので、気になる方はぜひお声掛けください。